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2017/09/26 (Tue)

14話 背後

 この世界、エリンでは他の世界から訪れる人も珍しくは無い。
 それは勿論、数日前に来た3人もまた、当たり前のように歓迎された。
 ただ、訪れた理由はまたそれぞれであり、仕方が無い場合や、逆に望んで世界の住人となる場合がある。

 そして彼女もまた・・・。



 「助けて下さり、本当にありがとうございました。」



 脱帽すれば、彼女は髪を上方面へポニーテール状に縛っていたことが分かる。
 藍色の綺麗な髪がさらりと流れ、愛嬌のある青い瞳が遠矢を映した。にっこりと微笑む顔は何だか可愛い。
 そんな顔されても、相変わらず表情の変化をあまり見せない柳火は、やはり慣れと言うものか。

 柳火からの紹介によると、彼女の名前は椿と言う。
 正式に言えば椿刹那と呼ぶが、刹那は飾りであると彼女自身ハッキリと言った。普段釣りばかりで当ても無く移動しているようだが、行き先は大体釣り堀であるらしい。椿が熊に囲まれて剣も振れなかったのは、戦いが大の苦手であるのが原因だった。



 「椿さんも、この世界の人間じゃないからな。」
 「え・・・そうなのですか?」



 遠矢は複雑そうに、しかし真顔で驚いた声を上げる。椿は片手を左右にヒラヒラさせながら「珍しいことではないみたいですよ」と、少々困惑した顔で言う。
 そうとなると今居る3人は皆、エリンの住人ではないと言うことになる。確かに珍しいことではないなと、遠矢は納得した。

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14話 背後




 3人はここ・・・巨大な湖があるアブネアから、賑わう都会であるダンバートンに向かっている途中であった。丁度柳火や遠矢はそこへ用が出来た為であり、椿は田舎町であるティルコネイルへ釣りに行くと言う。

 歩く道は、障害もなく360度見渡せる。ただ固い土を見せた道と、全面的に日を浴びる芝生が生えていた。
 普段、旅に慣れた者は馬や巨大な鳥などを購入し、風に辺りながら快適に速く移動するのだと椿は言う。しかしそう知識がありながら、椿自身は小動物であるペットと徒歩で旅することを好むらしい。

 小動物と言うと・・・先ほどニノと共に居た猫だ。
 種類はペルシアンと言い、全身純白な毛や尻尾を持っている。
 しかし普段は大人しい性格と聞いたらしいが、男っ気満々の喋る猫・・・。



 「あ、そうだ。」



 椿はふと声を出し、遠矢の方へ振り向いた。髪がさらりと揺れる。



 「遠矢さん、動物が喋るってことに疑問に思いません?」
 「・・・そう、ですね。」



 遠矢は不意の言葉に少々驚きながら、曖昧ではあるが頷いた。
 翔慎と呼ばれるペルシアンに関しては、ネズミであるニノと同じ原理で喋っていると思い、大して驚いていなかった。しかし、知りたくないかと言われれば頷かずにはいられなかった。

 椿はクスリと笑い、その隣で黙々と足揃えて歩いている柳火は相変わらずの無表情。
 しかし何故か、遠矢の方へと気になるような視線を向けているのは気のせいか・・・。椿はその様子にも気が付いていないのか、それとも無視しているのか、さらりと言ってのける。



 「動物の中には、主人と通じ合いたいと思う子もいるのですよ。」
 「通じる?」



 そう聞けば、主人に忠実であると理解出来るものである。しかし遠矢にとっては、正直どう見ても翔慎やニノがそのように思っているようには見えない。翔慎にしては俺様な性格であり、何処をどう見ても通じ合いたいとは・・・思えない。
 動物が言葉を覚え、自在に操れるようになれるならと、元の世界に居た時は思ったことが何度かあったが、ペット自身の気持ちの問題でも無さそうだ。



 「ニノも、いきなり話し出した。」
 「そう、数えられる数ですが、突然喋り出したって言うのが正しいところ。」
 「・・・思うだけでは喋ることはないのは確かなのですか。」



 遠矢の問いに二人は頷く。



 「そうかぁ、ニノちゃんを見たから翔慎を見ても驚かなかったのね。」



 椿は若干残念そうに呟く。っと言うのも、どうやら彼女は喋る猫で遠矢を心臓止める程驚かせたかった・・・ようにも見える。しかし暫くすると椿はキョロキョロと目を泳がすようになり、遠矢もそれに気がついた。目の前には、既に街が見えてきていた。



 「椿さん、ダンバだ。」
 「・・・じゃっ!私はティルコネイルに向かいますっ!」



 まるで柳火の言葉が聞こえなかったかのように慌てて振舞い、椿は笑顔で挨拶し背を向けた。
 ローブの姿であるからか、それとも釣り道具が多いからか、ただ単に慌てていたからか分からない。豆粒の影になるまで見送ったが、何度か何かが足に引っ掛かり転んでいる姿が見られた。空気へ溶けるように消える時には、若干ふらついていた気がするが紳士的に翔慎が現れ背中を支えている姿も見られた。
 そして遠矢の隣で溜め息吐いた柳火は、ボソリと呟く。



 「相変わらず・・・。」










 アブネアからダンバートンに向かうのには、そんな時間もかからないご近所である。
 ただ人通りはあまり多くないからか、ダンバートンからアブネアへ向かう道が特に無く、迷った挙句近くのダンジョンに足を運んでしまう人も少なくは無いと言う・・・。

 そして遠矢と柳火がダンバートンに訪れたのは、柳火宛てにある依頼を受け取ったからである。
 この大陸中心部と言っていいほど、交通が便利で多くの旅人が訪れる。仕事を探すのも行うのも、この街に適しているようであった。



 「柳火、依頼って?」
 「衣料品店のシモンからだ。」
 「シモンさん・・・。」
 「正直あまり会いたくないが、仕方が無い。」



 柳火はいかにもげっそりした表情でいるのも珍しい。
 遠矢が想像した人物像は、横にデカイおばちゃんや、老婆なのではないかと予想する。彼が苦手そうな人となると、よく喋る人と何故かイメージがついている。
 「シモン」と言う名前から女性が出てくるが、果たしてどうなのか・・・。



 「アラ、柳火ちゃんじゃないの。」
 「・・・!!」



 背後から声がかかり、動かしていた足がまるで石になったように硬直した、二人揃って。
 声は男性であるはずだが、口調が妙に甘ったるい。遠矢はそれを感じていた。
 女性と言うより、世間話が大好きなおばちゃんの口調、そして声は男性とハッキリするのであれば言わば・・・。

 今や柳火は胃辺りを抑えて必死に堪えているようであり、顔色も若干悪い。どうやら今背後に居る人がシモンと言う人らしい・・・。あまり会いたくないレベルじゃないと突っ込もうと喉まで出かかったが出せなかった。
 遠矢は後悔する覚悟で、背後へ振り返り笑顔を作った。



 「こ、こんにちはー。」
 「あら、こんにちは。柳火ちゃんの知り合いかしら?」



 後悔した。



 そこには紙製の買い物袋を抱えた、ひょろりと背の高い、男性が居た。
 薄いブラウンの髪に同じ色の瞳、肌は気味悪いほど白かった。白い服に紫に近い紺色のズボン、特に印象に残るのは手首や首元辺りの服はフリル付きであることだ。スカートではないだけまだマシではあるが、フリル満載の高級そうな服は明らかに女性の好みだ。女性でなくても音楽家やダンサーが好みそうだが・・・。

 派手、と表現するのが賢明だった。



 「遠矢と言います。つい最近他の世界から来て、柳火から色々教えて貰っています。」



 なるべく気を逸らさせつつ、遠矢は慣れない笑顔で話す。
 シモンと言う人は「あら~」と相変わらず女性口調で喋るが、これが通常らしい。
 抱えている買い物袋を横にずらし、遠矢の上から下までしっかり見てきた。
 そして言った言葉。



 「柳火ちゃんに頼み事していたけど。遠矢ちゃん、貴方も私の店に来なさい。」
 「え・・・。」
 「貴方が好みな衣装、貴方を好む衣装が見つかるかもしれないわ。是非いらっしゃい。」



 シモンはにこやかにそう言い、買い物袋を抱え直してそそくさと街へと消えて行った・・・。
 遠矢は唖然としてシモンが消えた街中を見る。

 外見と口調が一致しないところに、第一の印象であることは変わらない。
 しかし、最後に放つ言葉に惹かれたのか、不思議な気持ちになっていた。



 「遠矢・・・。」
 「あ・・・柳火大丈夫か・・・?」



 先ほどまで棒立ちしていた柳火が、静かに溜め息を吐き言い放つ。










 「気に入られたな。」
 「・・・・・・。」
 遠矢からは何とも返事し難いと言うことは、柳火も分かっていた。



 10/10/15 作成
 11/02/11 公開

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2011/03/16 (Wed) マビノギ CM(0)
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